旅の途中



不法を合法化するお仕事


私がパキスタンで関わってるお仕事はInformal Sectorをformalizeする、という試みの一環です。一言で言うと、スラムなどに不法に居住しているBOP層の人々に法的に有効な土地所有権付きの家を提供しようというもの。SaibanというNGOが80年代に始めた画期的な試みを全国的に広める為に、今非営利の事業から営利事業へと発展させようとしている。

Saibanが立ち上げたモデルはIncremental Housingと呼ばれている。出来あがった家を売るのではなく、何もないまっさらな土地を安価で提供し、そこに住人自らが汗をかいて少しずつ家を建てていく。本当に電気も水も下水施設もないまっさらな土地に一家で移住してきて、最初はテント生活しながら毎日少しずつ煉瓦を積み上げていくのだ。一番最初に住み始めた家族の勇気と根性ったら本当に想像を絶する。

この「自分で作る」という仕組のおかげでコストはめちゃくちゃ低い。住民は頭金8,000ルピー(約一万円)、後は毎月300ルピー(約400円)を7年間払い続ける。これが土地代とインフラ代という計算。建設にかかる費用は別途自己負担なので、デザインも大きさもお財布と相談しながら各自のペースで。同時に、住民からの毎月の回収額を元手にSaibanが少しずつ電気・水道などのインフラを整えて行く。ということで、全く外部資金に依存しないスキームになっている。土地は政府から無料で提供されている場合もあれば、私有地で土地代が高いケースでは、2割程度の土地を商業用地として留保しておき、コミュニティが拡大し土地の値段が上がったところで売却、その利益を低所得者向けの土地代と相殺している。

低所得者向け住宅の最大のチャレンジは、低所得者を装った投資家やマフィアが土地を買い込み高値で売り払ってしまうところにある。Saibanはこういった投機家を排除する為に土地購入後3か月以内にその場所に一家全員移り住むことを求めている。住んでいない場合は土地没収。さらに全てのコストを払い終える7年後までは土地の所有権は住民に移転されず、当然その期間は転売、転貸なども出来ない。

さらにSaibanは他のNGOなどと協力して学校、モスク、診療所、コミュニティセンターと社会インフラも提供している。10年前にはなーんにもない更地だったとは想像もつかないような一大コミュニティ。今では30,000人が住み、3分の一の住民がコミュニティ内で職に就いているそう。

実際に行ってみると、すごい、の一言。煉瓦作りで日本の下町のように壁を共有している家々。カラチでは街中を歩いているのも見かけなかった女性たちが木の下に車座になって井戸端会議。子供が走り回り、小さな商店から笑顔で手を振るおじちゃん達。自分が滞在している高級住宅地の一角より、よっぽど安心感を覚えた。人の表情がイキイキと明るかった。

Incremental Housingの神髄は究極のボトムアップアプローチと言えると思う。そもそも土地しかないのだ。そこから自力で家を建て、インフラが整うまで辛抱強く待ち、隣人と一緒になってゴミ処理のルールやなんかを決めて行く。Saibanの創設者Tasneem Siddiqui氏は‘Success can only be achieved when you involve the community in the entire process from inception to completion. They will eventually own the project.’ と語っている。Ownership、が持続的に発展するコミュニティのカギなのだろうとなんとなく意識し始めている。物理的な所有ではなく、「ここは自分たちの共同体だから、自分たちでどうにかしなきゃ」っていうOwnershipの「意識」。その為に、外部から何かを与える、持ち込む、教える、という従来の開発マインドセットをひっくり返し、極力、何もしない。これってすごい勇気だ。何もない土地に「はい住んで下さい。手助けはしますが、基本的に自分で家を建てて下さい」と言う。どう考えても常識的ではない。ぶっとんでる。だけど、ここにこそ実はOwnershipの芽が有るのではないか。

Saibanモデルは全国にゆっくりと広がっていて、今ラホールで4つ目のプロジェクトが進行中。そしてそこから営利事業へと発展させようという新たな試みに関わらせてもらっている。オリジナルのモデルから少しずつ変容を遂げる中で如何にこのOwnershipの意識を維持出来るのか。新たな方向性についても又更新します。

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by nanacorico0706 | 2010-06-27 23:32 | パキスタン
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2年間の米国留学生活をゆるゆると綴ります・・・
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