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旅の途中



シャラワカミーズを考える


東南アジアは色々な国を回ってきたけど、パキスタンでひと際強く「異国感」を感じる理由の一つが、この国の人の「格好」だと思う。大半の人がシャラワカミーズと呼ばれる伝統衣装を着ている。世界中どこでも普通になっていると思われるTシャツやジーンズといった西欧の格好をした人が圧倒的に少ない。特に女性でシャラワ以外の洋服を着ているとものすごーーーーく目立つ。

シャラワカミーズこんな感じ。日本人の私もアメリカ人のサラもやはりイマイチ似合ってないよね・・・
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開発学を勉強して一年、最も強調された学びの一つは「近代化理論」を疑うことだったと思う。世界中のあらゆる国が先進国同様に農業中心の前近代的社会から一つ一つ階段を上がるように高度消費社会へと離陸していく、という近代化理論。戦後の開発政策の基盤となったこの単純明快な理論は文化の多様性を無視した西洋中心主義的理論、という倫理的な批判に加え、持続可能性を考慮していない、という問題点などが指摘されてきた。もはや近代化理論は時代遅れ、とされつつも、やはり訪れる度に西洋化していくように見える東南アジアの国々を見てきて、それ以前に自国日本の歴史を振り返ってみて、どこかでこの理論のもつ説得力も感じずにはおれなかった。

が、パキスタン。この国、何か違う。少なくとも衣装という最も表面化し易い部分で西洋化、してない。多少西洋的ファッションのミックスが見られたりするものの、皆伝統衣装だし。なるほど、近代化理論への反論然り、文化的な面でも一様に先進国の辿ってきた西欧化の道を進むわけではないのね、と。日本では明治時代にあっという間に失われた美しき着物文化に郷愁を馳せる。一体世界中で起こっているこの西洋化の波にパキスタンが乗らなかったのは何故か?翻って乗りまくってきた日本、何故か?

なんて思っていたら事情はちょっと違うことが分かってきた。80年代以前は、ミニスカートで街を闊歩していた女性がいたと!!!!びっくり。カラチにディスコが有り、人々はレストランでビールを楽しみ、外国人がわんさか観光していたとか。その当時のパキスタンは確実に西欧化の軌道に乗っていたのだ。ところが、70年代後半に政府主導でイスラム化が行われ、公共の場でのアルコールは禁止、女性は自転車もバイクも運転しちゃダメ、シャラワカミーズの奨励、などなど、現在のパキスタンの様相へと変容していく。ムシャラフ大統領時代に少し緩和されたものの、現大統領になってから女性のテレビや広告への出演が規制されたり、また保守化の傾向にある。

グローバリゼーションと同時に世界どこにいってもアメリカナイゼ―ション、みたいなこのご時世に伝統衣装がまだ主流なんてステキ~ってロマンチックなものでは全然なかった。今まで会ったパキスタンの人でこういった政府主導のイスラム化の傾向にポジティブな人は皆無。敬虔なイスラム教徒も政府の保守化には悲観的。

アイデンティティとは何か、文化とは何か、ということを改めて考える。政治とは隔離されたもののように思えるこういった概念が、現実には非常に強く政府に統制されている。パキスタンのイスラム化も隣国インドとの分離以来の緊張関係が背景にあったという。ヒンドゥー色を強めるインドに対抗すべくイスラムの価値観を梃子にナショナリズムを強化していったのだと。西洋視点の近代化理論への反動もあり、民族固有の宗教・文化というのは80年代以降の開発論の中心的概念になっているけど、いったいそれらが本当に伝統社会に根付き、人々の内的価値観に基づいたものなのか、見極めるのは難しい。シャラワカミーズ素敵!なんて単純に思っていた第一印象から少しずつこの国の興味深い歴史と社会の変遷に思いをはせる今日この頃でした。
by nanacorico0706 | 2010-07-09 03:03 | パキスタン
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2年間の米国留学生活をゆるゆると綴ります・・・

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