この数週間すごい頻度で飛び交っている東北支援のメールの一端にこんなものを見つけた。
●逆説の十ヶ条●
1 人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。
それでもなお、人を愛しなさい。
2 何か良いことをすれば、
隠された利己的な動機があるはずだと人に責められるだろう。
それでもなお、良いことをしなさい。
3 成功すれば、うその友だちと本物の敵を得ることになる。
それでもなお、成功しなさい。
4 今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。
それでもなお、良いことをしなさい。
5 正直で率直なあり方はあなたを無防備にするだろう。
それでもなお、正直で率直なあなたでいなさい。
6 最大の考えをもった最も大きな男女は、
最小の心をもった最も小さな男女によって撃ち落されるかもしれない。
それでもなお、大きな考えをもちなさい。
7 人は弱者をひいきにはするが、勝者の後にしかついていない。
それでもなお、弱者のために戦いなさい。
8 何年もかけて築いたものが一夜にして崩れ去るかもしれない。
それでもなお、築きあげなさい。
9 人が本当に助けを必要としていても、
実際に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。
それでもなお、人を助けなさい。
10 世界のために最善を尽くしても、
その見返りにひどい仕打ちを受けるかもしれない。
それでもなお、世界のために最善を尽くしなさい。
ケント・キースさんと言う方の言葉で、マザーテレサもしばしば引用しておられたとのこと。3月11日以降を振り返るとこの10カ条のどれか一つでも心の琴線に触れる人が多いのではないかと思う。この震災にどういう形で、どういう距離感で、どんな立場にいて立ち向かっていたとしても。
卒業を2カ月後に控えた今、この「それでもなお」の精神をちゃんと心に刻もうと自分に強く言い聞かせている。大学院で過ごした2年間は「何が正しいか、何をすべきか」をひたすら考え、議論する時間だった。ここから先は現実の世界でそれを形にしなければならない。おそらく、これが現実ですよね・・・とげんなりしたり、ちくしょー、となったり、そんなことの繰り返しだと思う。なんかもう誰が悪いとか正しいとかじゃなく社会という壮大で複雑に絡み合った不条理の鉄壁に耐えがたい無力感を感じたりもするだろう。そういう時にちゃんと「それでもなお」と思えるような心持でいたい。心持でいて下さい、私。
会社を辞めて留学しようと決意した時は学びたい欲求から大学院に来たわけではなかった。開発の世界ですぐにでも実務に関わりたいけど知識も経験も無いし、まずは大学院行くしかない、みたいなある意味戦略的な理由で留学を決めた。大学院という二年間を通り抜けると、私の外側に知識やスキルがくっついて途上国で問題を解決する専門家が仕上がる、みたいな。だけど、結果的にはこの2年間学ぶことを大いに楽しんだ。スキルの習得よりも哲学した。外側じゃなくて内側に色々くっついた。本当に本当に有益で貴重で忘れられない経験になった。授業に出ながら胸が熱くなったり鳥肌が立ったり、なんてなかなかあることじゃない。成長した、という感覚じゃない。どちらかというともっと揺らいでしまったかも。でもそれでいい。
結局私は「開発」を仕事にしたいわけではないという想いに至った。今更、恥ずかしながら。というかそんな職業はないのだろう。人々が幸せである。社会が公平である。そういう大きなビジョンに向かって、小さな一つのピースを押したり引いたり叩いたり撫でてみたり壊したり作りなおしてみたりそういうことをする。失敗したり無駄だとおもったりすることが有っても「それでもなお」と思って小さな一つのピースに明日もまた向き合う。もう一度押してみる、引いてみる。諦めずに、失望せずに続けることだと思う。
「それでもなお」のフレーズですぐにピンと来たのがマックス・ウェーバーの『職業としての政治』の最後の一節。
「もしこの世の中で不可能ごとを目指して粘り強くアタックしないようでは、およそ可能なことの達成も覚束ないというのは、全く正しく、あらゆる歴史上の経験がこれを証明している。(中略)人はどんな希望の挫折にもめげない堅い意志でいますぐ武装する必要がある。そうでないと、いま、可能なことの貫徹もできないであろう。自分が世間に対して捧げようとするものに比べて、現実の世の中が―自分の立場から見て―どんなに愚かであり卑俗であっても、断じて挫けない人間。どんな事態に直面しても『それにもかかわらず!』と言い切る自信のある人間。そういう人間だけが政治への天職を持つ。」
いや、政治家になりたいわけでは全くないのですが、政治学を勉強していた20歳の私がいたく感銘を受けて力いっぱい線を引いた岩波の文庫本の最後の一節が今でもまだ私を引きつけることがなんだか情けないような嬉しいような。
あと2カ月。新しいスタートがどこで、どんな形になろうとも、ちゃんとこの覚悟を忘れない。転んでも傷ついても、歩みを止めないこと。頑張れ、私。