旅の途中



『辺境から世界を変える』


a0158818_12462517.jpgTwitterを通じて知り合った加藤徹生さんの本。 正直、企業家一人一人に焦点を当てたルポ、と聞いて最初はそんなに興味がわかなかった。ソーシャルビジネスに関する勉強はある程度してきたつもりなので、「今世界ではこんな面白い人たちがこんな斬新なことやってますよー」的に表面をなぞるような内容だったら少し物足りないかも、と。でも読み始めたら引き込まれて一気に読んだ。

それはきっと加藤さんの「目線」が好きだったからだと思う。つまり、その目線が徹底して本当の草の根のリーダーたちに置かれていて、彼らの心のひだを丁寧に拾っていたからだ。

ソーシャルアントレ、というといろんな文脈で話す人がいるけど実は先進国のエリートがぴかぴかのキャリアを捨てて立ち上げました、かっこいい!!終わり。みたいなストーリーってけっこう多い。貧困層を救うためのソーシャルビジネスの現地オフィスが上流階級のスタッフで固められていて「リキシャ?危ないから乗ったことありません。」と言われてげんなりしたこともあった。資金提供する大富豪やMBA的経営スキルをまとったビジネスエリートが主役のソーシャルビジネスではきっと本当の変化って起こらないような気がしていたのだ。

加藤さんの視点はそこにはない。ことが気持ち良かった。題名が表すように舞台は「辺境」だ。当事者自身が足元から変化を起こしていく。NYやボストンのカンファレンス会場には無かった泥臭さがぷんぷんする。こういうリーダーが他にも世界にゴマンといるとしたらすごい楽しいな、と元気が出た。

一番はっとしたのは事業のノウハウや手法を積極的に公開し同じモデルをどんどん真似してもらおう、とするセルコ社。この姿勢がソーシャルビジネスの本質なんだと思う。

これって簡単なようでスゴイこと。真似した会社に市場を食われて先行者だった会社が立ちゆかなくなることだってもちろん有りうるのだ。ある意味では、それでも良い、という覚悟がなければ出来ない。会社としての未来永劫存続することがミッションではなく、社会にとってベストなソリューションが提供されていること、がミッション、という大前提があるからこそ自らの会社が無くなるリスクも冒せるというもの。市場での競争を左右する指標が利益以外の価値に収斂されていく。まさにスケールアップ(組織としての拡大)ではなくてスケールアウト(モデルの拡散による社会的インパクトの拡大)が問われているということ。

加藤さんはこの拡大戦略の2分類を、両者とも必要で、特に発展途上国のように市場が未熟なところではスケールアウト型で一気に業界を立ち上げるのが良い、と言っている。つまり、業界が成熟すればスケールアップ型の拡大戦略が有効になっていくのだ、という含みがあるのかと。

でも、すごく大胆に妄想すれば、私はビジネスの世界がスケールアウト型がマジョリティ、になれば面白いのにな。と思う。いや、なっていくんじゃないか、とさえ思ったりする。規模の経済を追求するスケールアップ志向の市場が行きつく先はシュンペーターが言っていたみたいなイノベーション無き独占市場なのだとしたら、ローカル事情にカスタマイズされた同種モデルの中小企業がいっぱい、みたいな世界、の方が面白くないか?

市場レベルのリターンを求めるインパクトインベストメントの最近の動向を見ていると、ソーシャルビジネスはこうした投資家を持つことによってスケールアップ型への転換を余儀なくされているのではないかと思ったりする。例えば賛否両論激しいマイクロファイナンスの上場、もっと多くの貧しい人にサービスを届ける為には市場から資金を調達するしかないのだ!という議論が多いけど、株主というステークホルダーを持ちながらスケールアウト型の戦略を取り続けることはやはり難しいのではないだろうか。

加藤さんが提案しているプレーヤー同士の「対話のプラットフォーム」の重要性は多いに納得。でも、ブラックリストの共有だけが本当に意味のある対話とは思えない。ノウハウ、情報、イノベーションが共有され、「スケールアウト」していくようなシステムって何か?加藤さんの問いかけは私も今後の宿題。

「辺境から世界を変える」、の意味はいつか辺境が中心と同化する、ということではない。辺境から来た新しい価値が中心を揺さぶっていくことだ。鳥肌モノのソーシャルビジネスは既存の価値観が定義する「市場」で新しいモデルを創り出していくのではなく、市場を定義する価値観自体を覆すものだと思う。

と、相変わらず考えはまとまらないけれど、色々とインスピレーションを得た一冊なのでした。加藤さん、今週会うから疑問をぶつけてみよう。
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by nanacorico0706 | 2011-08-15 12:50 | 読書
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2年間の米国留学生活をゆるゆると綴ります・・・
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