旅の途中



What’s Mine is Yours

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私のモノはあなたのモノ。というタイトルが示す通り、モノを個人で所有する時代から複数の人たちで共有する時代になっていますよ、というのがこの本の主題。世界では今、所有からシェアへのパラダイムシフトが起こっている。

高級車や大きな家、ブランドものを所有することが豊かさであり幸福であった時代は終わった。私たちは所有のマインドセットから脱し、リソースやモノをお互いに共有し合うことに価値を見出している、と著者は主張する。車も家もブランドバッグもシェア。Collaborative Consumptionと名付けられるその消費行動は、他と共有し、協働しあうコミュニティを形成していくのだ、と。

美しいじゃないですか。素晴らしいです。だから、その本質を探りたくて期待大で読んだのだけど、どうにも納得出来なかった。確かに「シェア」を軸とした斬新な事例は山ほど紹介されていた。Craig’s list、Zipcar、Sharable、Couch Surfingなどすごく面白いモデルだと思う。だけど、こういったサービスやシステムを受け入れ始めた消費者の心理の変化に関する考察はあまりにも的外れな印象。著者の分析が正しいとすると、結論、パラダイムシフトなんて起きてない。

映画版Sex and the Cityのこんなシーンが引用されている。
アシスタントを探していた主人公のキャリーのもとに面接にやってきたルイーズ。気に入って採用を決めたキャリーがルイーズに最後の質問。「無職のあなたがなぜヴィトンのバッグなんて持ってるの?」と。ファッション狂のキャリーらしいちょっといたずらっぽい質問だ。ルイーズは恥ずかしがる素振りも無く、「これはレンタルよ」と。Bag Borrow or Stealというブランドもののバッグをレンタル出来るアメリカで人気のサイトで借りたものだ。「なんで知らなかったのかしら?!」とキャリーの驚き&感心で場面は閉じる。



著者は「ルイーズが借り物のヴィトンを照れも隠しもしなかったように、人々は今、シェアすることを誇りに思っているのだ」と言う。

本当にそうだろうか?

あの映画を見た人なら記憶しているかも。映画の終盤、アシスタントを卒業するルイーズに対して、精神的な支えになってくれたお礼にキャリーがプレゼントするもの・・・ウン十万のヴィトンのバッグである。箱を開けて「自分だけの」ヴィトンを見つけたルイーズは発狂寸前の興奮で歓声を上げる。彼女はシェアする行為に価値を見出してレンタルをしていたのではない。本当は所有したかったのだ。自分だけのヴィトンのバッグが欲しかったのだ。どうしても手が出ないそのバッグを仕方なく借りることでやり過ごしていたに過ぎない。ルイーズに限って言えば所有からシェアへのマインドシフトなんて起こってはいない。所有したくても出来ないから疑似的所有の為にシェアをしているに過ぎない。

この矛盾を著者はあっさりと認めてしまっている。「A key to a product service system’s success is its ability to satisfy our deep-seated need to feel like an owner for at least the time the product is in our care.」所有したいという人間の根源的欲求を満足させるような仕組みを作ることがコラボレーティブ消費の成功のカギだと。つまり、著者の言うシェアリングエコノミーとは所有せずに所有する満足感を得る為の仕組というわけ??所有からシェアへ、システムは移行しているものの、その仕組に参加する消費者の意識や価値観はシフトしていない。消費者は引続き所有したいのだ。

この本が描くシェアリングエコノミーのロジックは企業の所有からリースへのトレンドと同じレベルにしか見えない。ここ10年ぐらいで急速に進んでいる企業による資産圧縮。従業員を派遣に切り替えたり、工場を売却したり、自社ビル保有しないで借りる、所有しなくて済むものは所有しない。そのほうが投資効率がいいから。

所有することへの拘りが薄れているのは確かだろう。だがそれは、私たちがより責任ある、協調的な行動にコミットし始めているのではなく、単に経済的な意味でスマートなっているだけなのか?

いや、実際にはそうではない、と信じたい。コレクティブな何かを模索する現代人の心理ってもっと深いところにあるはず。そこがこの本では全く見えてこなかった。

著者は言う。消費者を変えるのではなく、システムをよりサステナブルなものに変えれば良いのだと。個人の利益を追求する消費者が今までもサステナブルでコレクティブなことをしていると気づきさえしないようなシステムに。消費者の意識を変えることなく消費行動を変えさせることがミソなのだ、と。サステナブルな消費が実現さえすれば消費者のマインドセットを変える必要はない、と。

???

社会の変化というのは個人の意識の変化→システムの変化というベクトルと、システムの変化→個人の意識の変化という双方向のインタラクションで有機的に起こっていくものだと思う。著者が想定するようなシステムの中で無意識的に条件反射的に行動するような消費者像にはかなり違和感。

そんな薄っぺらいものではないはずだ。シェアハウスや時間バンク、exchangeやクラウドファンディングのもたらす社会的インパクトの調査とかやったらすごく面白いのではないか。参加した人たちの意識や価値観がどう変化していったか、全く変化しないのか。これだけたくさんの事例をさらって膨大なインタビューをしているのにもったいないな・・・。

シェアリングエコノミー、所有と独占の常識をひっくり返す新たな経済やマーケットの仕組が必要とされていることは確かだと思う。システムの変革も人の意識の変化も同時並行的に起こっていくはずだ。パラダイムシフト、これから。
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by nanacorico0706 | 2011-12-04 12:58 | 読書
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2年間の米国留学生活をゆるゆると綴ります・・・
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