SOCAPというカンファレンスの存在を知ったのはアメリカ留学一年目の2009年だったと思う。
ソーシャルキャピタルマーケット、の略でSOCAP。
世界をより良くするための資本市場を創りだそうとする人たちが集まるマニアックなカンファレンス。
2010年のJP Morganのレポートを機にImpact Investmentという言葉が一気にその認知度を上げて以降は、ソーシャルな分野に関心のある機関投資家や元インベストメントバンカーたちの集まり、という様相を呈していた。
すっごく行きたいような、行ったら行ったで疎外感たっぷりでうんざりするだろうことを想像すると絶対行きたくないような、そんな気持ちで遠くから眺めているカンファレンスだった。
今年、満を持して行ってきた。
行きたいけど行ったらがっかりしそう、という相変わらずの揺れる乙女心のまま降り立ったサンフランシスコ。
結論としては、本当に来て良かった。
何が良かったかって、SOCAP自体から揺れる乙女心を感じ取れたからだ。
おカネの流れをもっと社会に良い方向に変えて行く、ということをテーマに活動する人には大きく2つのルーツがあると思っている。
一つはここ数年で一気にこのセクターに流入してきたウォールストリート育ちのメインストリームの投資家達。JPモルガンやゴールドマンサックス、ドイツ銀行、シティ銀行、などなど社会的インパクトを出しつつマーケットレベルの経済的リターンも求めようとしている投資家達。ロックフェラーやフォード財団、Omidyar Networkなどの大手財団もこういったメインストリームの投資家に思想や関係性としては近い。
こっちの文脈で言うと今回のカンファレンスで面白かった例はソーシャルインパクトボンドという「ソーシャルインパンクト」の大きさに経済的リターンが比例する債券。こういった洗練された金融ツールを使ってどうやって「規模」を追求したり、既存の金融システムに統合していくか、というのが一大テーマ。
もう一方のルーツはもっと筋金入りで歴史が長い。60~70年代の社会運動に根っこを持つ、社会主義的でヒッピー的なローカルバンクやNPOたち。メガバンクなどのメインストリームの金融システムに対抗して地域に根差したおカネの流れを追求してきたひとたち。
こちらは例えばIPOならぬDPO(Direct Public Offering)といってビジネスの所在する地域で少額の株券を発行して不特定多数から資金調達をする方法を実験していたり、いかに既存の金融システムに頼らず一般市民の力でリソースを動員するか、と言うところに心を割いている。
Impact Investmentというと前者のメインストリーム投資家しか想定しない場合が多いけど、今回のSOCAPでは主催者が意識的に呼んだとしか思えないくらい後者の立場の人がきちんとスピーカーとして招かれていた。びっくりした。例えば初日のキーノートで登壇した
Democracy Collaborativeの創設者は共同組合についてがっつり紹介していたし、
RSF Social Finance や
BALLE 、
Criterion Venturesのようにコミュニティビジネスやローカルバンクにこだわってきたプレーヤーもキーノートに登場、セッションもメインで持っていた。彼ら自身も「私たちはSOCAPのstep child(腹違いの子)だから」と冗談を言っていたぐらいちょっと場違い、と感じていたのだろう。それぐらい、歴史的背景をみれば異色の2つの流れ。だけど大きな意味でのテーマは確かに似ている。ここに交わる意義があるはずだ。
「社会を良くするための投資がアセットクラスになる、とかいう話を聞いたけどちゃんちゃらおかしいわ」と痛烈にImpact Investorたちを皮肉るパネリスト。会場は称賛と笑いと拍手を送る人たちもいれば、しれっと(もしくはむすっと)聞き流す、みたいな人もいて、明らかに同床異夢なこの空間。ポール・ポラックが「Impact Investmentは利益とインパクトを混乱している」と書かれたスライドをでーんと出して苦笑の渦を起こしていたり。
この対立軸とか矛盾とかまだコンセンサスの成立していない状況をちゃんとおおっぴらにしているところに主催者側の器の大きさを感じる。
ねちねち体育館裏に呼び出したり、排他的なサークル化をしないで表通りで対立する西海岸らしいオープンさも感じる。
Impact Investment万歳!みたいな、鼻息の荒い投資家ばかりが集まる場なのではないか、と思っていたけどそんなに同質性の高い場でもなかった。ほっとした。
揺れる乙女心を抱えていたのは私だけではなく、いわば業界全体なのだろう。
ある女性が語っていた。社会を良くするための新しい投資の流れのもっと深いところにあるパワーダイナミクスについてもっと語られなければならない、と。このムーブメントが本当にパワーダイナミクスを変えるのか、ということ。新しい投資といっておきながらテーブルが変わっただけで周りを見渡すとまた同じ顔ぶれだった、なんてことがないだろうか、と。
これは非常に重要な問いかけだと思う。
社会が本当に変わるということは関係性が覆ること、既存のパワーダイナミクスがひっくり返されること。Impact Investingに本当にその変化を起こすポテンシャルがあるだろうか?メインストリームの投資家がますます声を大きくする中で、この問いかけは背筋が寒くなるぐらい重要なのだ。
少なくともあの場所で、その問いかけがオープンに投げかけられ大きな拍手を受けていたことに力づけられた。
ルーツの違う2つの流れがお互いから学び合い、本気でこれからのおカネの在り方を一緒に創ることができたらすごい。
多様性の高いものが最後は勝つ(またJOIさんの言葉。。。)。そういう意味ではこのカリフォルニアベイエリアが何かと「世界一」と言われて世界中から優秀な人材やリソースを引きつけているのも多様性あってこそ。
ベイエリアの求心力についてはまた後日・・・