旅の途中



After Capitalism


前期は課題をこなすのでいっぱいいっぱいで自分の興味のある本なんて全く読めなかったので今学期は1カ月に1冊は授業に関係の無い本を読む!と決意。いつまで続けられるかしら・・・。

修士課程最初の必修科目は2年目の先輩から「超キツイ」とさんざん脅された開発理論。噂に劣らずものすごいリーディングとレポートの量、しかも難解というか抽象的な理論も多く眩暈のするような4カ月だった。その開発理論の授業でさんざん出てきたポストモダン/ポスト開発論。従来の開発政策は先進諸国がたどってきた近代化の道を途上国に押し付けてるものだ、として批判する立場で、基本的にアンチグローバリズム、アンチネオリベラル、アンチ資本主義。おそらく90年代あたりからこういったメインストリームに対する批判はかなり影響力を持っているのだろうけど、いまいちすっきりしないのが資本主義がダメならどうすればいいの?というところに明確な答えが無い点・・・。批判はごもっとも、What’s next?という苛立ち的反応がクラスの中でもかなり多かった。

で、そもそも資本主義の何がダメなんだ?てゆーか資本主義ってなんだ?というとこが理解できてなかった為、教授に勧めてもらったのがこの本、「After Capitalism」。a0158818_12561080.jpg「資本主義後(?)」ということでマルクス主義でいう社会主義のステージを暗に示しているわけだが、筆者はEconomic Democracyという新しい社会経済システムを提言する。

その前にまずは資本主義の基本的な性質をかなりシンプルではあるけど分かりやすく解説してくれている。
1.生産手段が資本家によって私有されていること
2.競争のある市場でモノが取引されていること
3.殆どの人が賃金労働者であること

確かに!とうなずいたのは市場経済が資本主義の同義語のように語られることがあるがこれは間違い、という点。実際には社会主義経済にも市場は存在する。マーケットの存在は資本主義の弊害そのものではなく、問題は市場がどの程度政府のコントロールを受けているかであるという主張。

これに対して筆者の提案するEconomic Democracyの要素は三つ。

1.会社の労働者によるセルフマネジメント
株式会社ではなくいわゆるCooperative・組合のような新しい会社組織を提案。働く人全員が等しく1票を持つWorkplace Democracyなるものを想定していて、重要な意思決定は株主がする株式会社とは大きく異なる。資本主義では生産手段は資本家の私有となるが、Economic Democracyでは労働者全員の共有資産。株式会社では労働力はコストだが、この組織では株主に利益を還元しなくて良いので最終利益を山分け(もしくは企業の決めた割合で分配)、ということになる。

2.競争のある市場でモノが取引されていること
Economic Democracyでも資本主義同様市場は存在。共産主義体制では政府の支配下に置かれる市場を開放し、需要と供給に従った価格決定と企業活動を肯定。

3.投資の社会的コントロール
資本主義体制では個人投資家や企業が行う投資活動は全て政府と地域社会が行う(!!)。企業の所有する資産(土地、建物、設備など)に税金を課し、この税金を投資ファンドに集める。集まった資金は住民の数に従って均等に地域に割り振られ、地域の公的金融機関を通して新しいビジネスに投資される。金融機関といっても金利は課せられず、グラントとして企業に供与される。ただし与えられた資金に上記の税金が課せられ、投資ファンドに戻っていく為この税金がある意味金利のような役割を果たすこととなる。この仕組みが資本主義システムでは豊かな都会や資本の豊富な企業に集中する投資の、より公平な分配を可能にする。因みにこの資産への課税の代わりに、企業は法人税は払わない。最終利益は企業の構成員によって分配される為、個人個人に所得税がかかって終わり。

いやー、すごい。かなりぶっ飛んでいるように思えるが、マルクス主義の思想が分かって非常に読み応えがあった。これぐらい思いきった代替案だと現実離れしているようでも学ぶことや発見が多かった。とはいえ政府の役割の文脈では何度も戦後の日本の経済政策の有効性が持ち出されていたし、程度の差はあれど、いかに政府が公平性に配慮した資本主義をデザインしていくか、の重要性を説いているのだろう。少なくとも、ネオリベラルなマーケット至上主義、市場万能主義では資本主義は公益を追求できないということは確かなのではないか。

それから労働者によるセルフマネジメントを実践している会社として、スペインのバスク地方にあるMondragonという大企業が紹介されている。1943年に地元の牧師さんが立ち上げた職業訓練所が元となって小さなCooperativeを組成、小規模の組合のグループ企業としてどんどん拡大して重工業から消費財、NASAとタッグを組む研究所まで擁する一大複合企業に成長している。2000年時点で構成員は53,000人、売上はUS66億ドル、総資産は130億ドル。ひゃー。この規模で一人一票、利益分配、解雇ナシ、という経営を続けているのだからすごい。

BostonにあるFair Tradeの会社は営利企業だが同じく組合の形を取っている。現実にきちんと成り立つということなのだ。意思決定に参加できることからより当事者意識を持ってビジネスに取り組むようになること、また、組織の利益が自分の収入と直結するので、収益性と効率性を追求するインセンティブも確保される。一方で株式会社と違ってトータルの利益ではなく、一人当たりの利益が重視されるのでどんどん組織を大きくしていこう、というモチベーションは生まれない。成長、さもなければ死、みたいなひたすら競争に追われ際限なく肥大化していく必然性がなくなる。結果、大きい企業が小さい企業の買収を繰り返して巨大化し市場を独占、といったことはなく、市場は競争状態が保たれる。

テクニカルな提言ではなくもはや思想なので、そもそも平等を追求する必要なんてない、もしくはそんなの無理、という考えの持ち主の方には響かないアイディアなのだろうけど、それでもやっぱり普通に考えて異常、と思うのは現在の資本主義が生み出している経済格差。

非常に面白かったのが、アメリカの世帯当たりの所得を人間の身長に置き換え、所得の最も低い人から最も高い人の順に1時間のパレードを行ったらどうなるか?という試み。アメリカの平均所得US55,000ドルを平均身長の180センチとすると、パレードは3センチに満たない人の行進からスタートし、貧困ラインを超える身長の人が出てくるまでに12分、なんと2千万人が通り過ぎる。小さな人の行進が延々とつづき38分経ったところでようやく平均身長の人々が登場、と思ったら5分後には身長は平均の2.5倍に成長する。ここから一気に身長の伸びと行進のスピードが加速。所得のトップ1パーセントの人が通り過ぎる36秒の間に身長は倍になる。のこり30秒のところでアメリカ大統領登場。身長13メーター。その後Forbes800に名を連ねるCEOが登場。10階建てのビルから世界一高いビルぐらいの身長。もはや顔なんて見えない。ディズニー社の社長が身長1.6キロメートル、ジャック・ウェルチが3キロメートル、そしてアンカーはもちろん永遠のベビーフェイス、ビル・ゲイツ。144キロメートル。エベレストの16倍、頭は雲の上。足でかすぎます。
a0158818_12441669.jpg


・・・うーん。グロテスク。やっぱり何かがおかしい、と思わざるを得ない。完璧な平等なんてものはもちろん無いし、そんなものは望むものでもないけど、3センチの人間と144キロメートルの人間が共存する社会ってどうしても気持ちが悪い。健康的な社会であるはずがない。これを世界規模で行進したとしたらもはやゲイツ氏は大気圏に突入するのではなかろうか・・・。健康的な世界であるはずがない。この気味の悪いパレードを作り出しているのはなんだ?というところに戻る。既存の社会経済システムに何か構造的な問題があるんじゃないか?この問いに対して筆者が提言しているのが富の分配に焦点をあてた資本主義の抜本的な改造。After Capitalism。非常に刺激を受けました!
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by nanacorico0706 | 2010-01-29 12:58 | 読書
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2年間の米国留学生活をゆるゆると綴ります・・・
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